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 BackNumber〜2016鈴鹿2

鈴鹿2016 キムヒデ車検レポート 2016/08/05 24:00

いやぁ、みんな元気かい?

ここ最近は、ソーラーカー製作の都合で、2年に一度のペースで鈴鹿サーキットに来ています。昨年の今頃は車体にスコッチカルを貼っていたかなぁ・・・。今回も、書いた本人もびっくりの30枚の写真を使った大作で、エンジニア向けに濃い解説を行いますよ!!


 

まずは、和歌山県の紀北工業高等学校のEne-1GP(パナソニックの充電式エボルタ40本を使って走るレース)のバイクにまたがせてもらった。特殊電装製のEne-1GP用モータを2機がけしたもので、トルクフルなセッティング。これなら鈴鹿サーキットの上り坂をぐいぐい進めそうだ。ちなみに私がかぶっている帽子は、繊維の上に高融点金属であるチタンがスパッタリングされたもので赤外線を反射して?涼しいといわれているハイテクなものです。赤外線反射だけなら、金とかアルミでもいいんですが、おそらく色合いを考えてかぶれる範囲内に抑えたものと考えます。


 

チタンといえば、大阪産業大学のOSU model S'のバネです。軽さとしなやかさを兼ね備えるもので、ソーラーカー用のバネとして最適なものです。自動車レースの世界では、コストが増大しないようにチタン部品の使用をレギュレーションで禁止する場合もあるけど、最先端技術を競うソーラーカーの世界では認められています。このチタンスプリングは、今年で13年目に入り耐久性も折り紙付き。太陽電池はトリナソーラー(Trina solar)のバックコンタクトタイプ(裏面電極型)。このタイプはSunPower社が開発したことで有名ですが、そこのエンジニアがトリナソーラーに移籍して開発されたのがこれ。研究室レベルで最大24.4%、量産レベルで22〜23% (最大23.1%)の変換効率を達成。トリナソーラーの担当者によれば、このセルは、トリナソーラーの技術力をアピールするためにOSU大阪産業大学のソーラーカー専用に製作したもので、コストの関係から市販化は予定されていなとのこと。国内で他の大学に対しても供給を行うのではないかと言われている。このセルは156mm角のコーナーカット無しのセルを4等分にしてからモジューリングを行っている。性能的もSunPowerセルと同等レベルの実力があるのではないかと思われる。4等分というセルカットはSunPowerではできない芸当で、裏面の電極構造が異なる形状になっているものと想像されます。


 

ピットを歩いていると、パーソナル無線(古い!)のような、白いダイポールアンテナを発見。そのアンテナケーブルをたどっていくと、デジタル簡易無線機にたどり着きました。鈴鹿サーキット内での通信用に用意されたもので、登録することで誰でも5Wまでの出力で送信できるもの。日本国内では携帯電話のハンズフリー機能と同様に重宝するのではないかと思われます。免許局と登録局の2種類があり、登録局の方であれば業務用通信もOK。携帯電話は2者間では便利だが、バラバラにチームメンバー間で情報を共有するには、無線機も重宝すると思われる。


 

何か新しいものはないかなぁ?と思っていると、ブリヂストンのECOPIA with ologicがありました。このテクノロジーブランドはBMWの電気自動車i3のときに登場し、大径+狭福で転がり抵抗と空気抵抗を減らすコンセプト。大径の方が乗り心地も良いのではないか? 95/80R16のソーラーカー用ラジアルタイヤは2015年のオーストラリア大陸3,000kmソーラーカーレースであるWorld Solar Challenge向けに開発されたもので、2015年の鈴鹿大会でもテストされていました。今回は、JTEKT、名古屋工業大学、金沢工業大学あたりがこのタイヤで鈴鹿にアタックするようだ。ソーラーカー用タイヤの中でも特に転がり抵抗が少ないタイヤではあるが、グリップ力、耐摩耗性、耐久性、横剛性など様々な性能が求められる。おそらくは、ブリヂストンの超低転がり抵抗タイヤ開発の先行開発としても位置づけられているのではないだろうか? お次は、JTEKTのピットで出してもらった、セラミック軸受け。窒化ケイ素(Si3N4)という高い高度をもつ材料は比重も軽めで、モータやホイールハブで発生する転がり抵抗を下げています。もちろん、通常のベアリングでも転がり抵抗は十分に下がりますが、ちょっとでもエネルギー効率を上げたいソーラーカーやエコラン大会で採用されるケースもあるようだ。個人的には黒真珠よりも宝石的価値が高いのではないかと思われます。なんとも言えないいい光沢です。


 

今回は、エンジョイクラスの狭小トレッド車両に注目してみよう。まずは元祖である、神奈川県の平塚工科高校 社会部のソーラーカー。今年は7大会連続優勝を目指します。フロント側トレッド幅は610mm(3輪車なので後輪は1輪のみ)と、かなり狭い。しかしながら、ドライバーの着座位置や低重心化などでコーナリング性能を保っている。鈴鹿サーキットでは重心位置を前側に持たせることで安定させ、オーバースピードになったときには、インリフトするのではなく、後輪がスリップするようにセッティングされている。新時代を築いた、いわゆる平工型は鈴鹿エンジョイクラスのトレンドになりつつある。


 

このコンセプトを踏襲したものに、宮崎県のTeam宮工(宮崎工業高校)がある。車体設計・製作技術に定評がある山本智弘教諭率いるこのチームは、実質的には2016年がデビュー戦となる。山本先生曰く、「サスペンションアームは極端に短く、ストーク量を小さくしている。狭小トレッドタイプは、ロールすると走りにくくなると考えられるため、あえてこのような設計にした。」と語っていました。しかしながら、きれいな舗装の鈴鹿サーキットでは問題は少ないが、縁石に乗ったり、路面が荒いコースでは、ストローク不足が問題になるかもしれない。車体はきれいなカーボンモノコックボディでポテンシャルは高いのではないかと感じた。


 

次は、PROJECT MONO with 篠塚。これまでは立命館大学チームとして活動していた車体であるが、今回は部員不足?のためか、電気エコランレース界のPROJECT MONOとして登場。ドライバーの篠塚建次郎さんは、2008年に東海大学ソーラーカーチームに参加して以降、静岡ソーラーカーチーム、芦屋大学、立命館大学などを渡り歩いている。屋根型の太陽電池パネルは、コア材に耐熱性があまり良くないスチレンボードを使っているため?か、熱で軟化して変形している。


 

お次は、熊本地震を乗り越えて鈴鹿にやってきた熊本県の開成工業。念のため言っておくが、開成工業高校ではなく、企業のチームである。こちらは、狭小トレッド型ではあるが、サスペンションのストローク量を確保する設計になっている。ロールしたときの挙動がどのようになるかは、宮工の山本先生の話もあるので気になるところだが、太陽電池パネルが低い位置にあるので、重心位置が下がってる。おそらくはこれはこれで、ロールとストロークの課題を克服できているのではないかと思われる。


 

こちらは、金沢工業大学が使用していたリチウムイオンバッテリ。赤いラミネートフィルムが巻かれているセルはパナソニックの円筒型NCR18650GAなのだそうだ。高容量リチウムイオン電池はソーラーカーだけで無くノートPCから電気自動車まで、幅広い期待を集めている。国内ルートでは入手が難しいが、海外から逆輸入する形で入手できるようである。大会資料によると名古屋工業大学、OSU大阪産業大学もこのNCR18650GAを採用していた。ソーラーカー界では、パナソニックのNCR18650B、NCR18650Aを採用しているチームもある。これ以外では、呉港高等学校がLG社のICR18650Dを採用している。ラミネート型リチウムイオンポリマー電池では、野村商会の85431255H1-SP1-R&D-1C-83Gを芦屋大学、大阪工業大学、サレジオ高専、JTEKTが採用していた。GS-YUASA系のソーラーカーチームであるENEMAX-KAIは、GS-YUASA製の大型リチウムイオン電池を使っているらしい。写真右側はレーザーポインタが付いた、サスペンションのアライメント調整(平行確認)用のプレート。永久磁石で シャフトにくっつけて使用する。そのため、シャフトにはスリーブのような形状のアダプタを着けることになる。


 

今度は柏会のMPPT。松山剛法さん設計のMPPT(左側)は昇降圧型のもの。右側は、新型。最大の特徴としてはワイドギャップ半導体である窒化ガリウム(GaN)電界効果型トランジスタ(FET)を使用していることである。GaNはシリコンと比べて、バンドギャップが大きいため、絶縁破壊強度が高いなどの優れた特徴をもっており、炭化ケイ素(SiC)と並んで次世代パワー用半導体デバイスへの応用が期待されている。このGaNの製造方法は難しいとされてきたが、ノーベル物理学賞を受賞しら中村修二氏らの努力によって製法が確立され、大量生産への道を開いた。今日、青色発光ダイオード、白色発光ダイオードがあるのも、このGaNがあってのことである。GaN FETは青いヒートシンクの下に隠れているので見えないが、EPC社のものを使っているようだ。ドライバーはテキサス・インスツルメンツ(TI)社のゲートドライブICを使用している。ちなみに、パナソニックが復活したオーディオブランドTechnicsのSE-R1SU-G30にも、GaN-FETが使用されている。(ミツバの齋藤さんに向けた情報です。)近年、音楽ソースがデジタル化する中で、フルデジタルアンプがアナログアンプを凌駕しつつあるが、これもPMWスイッチング制御用のトランジスタの性能向上によるところも大きいのである。ということは、モータコントローラ用としてもGaNを使ってみたいところだ。


 

海外勢として参加したのはトルコ・イスタンブール大学のTeam SOCRAT。トルコは約40もの大学チームがあるソーラーカー大国の一つであり、その中でもトップに位置のがSOCRAT。トルコのソーラーカーレースはサーキットで行われるため、鈴鹿サーキットも難なく走りきることができるだろう。オーストラリアの2015 Bridgestone World Solar ChallengeやUAEのアブダビ・ソーラー・チャレンジにも出場し、いずれも上位に食い込む世界の強豪チームの一つである。写真右側は、東海大学熊本ソーラーカーチーム。オリンピアクラスに向けて、新型車両を製作してきた。しかしながら4月の熊本地震の影響で校舎がダメージを受けた影響で、1ヶ月間ほど製作活動を停止。その遅れを取り戻すべく、厳しい工程を乗り越えてきた。しかしながら、公式車検を一発でクリアすることができなかった。サスペンションや安全装備の調整や改造などを行い、なんとか夕方17時頃に車検をパスし、本戦に臨む。技術的な面では、宮崎工業高校の山本先生をはじめ、同チームOBが多く所属する静岡ソーラーカーチーム、そして本家の東海大学ソーラーカーチームなどの支援を得て、完成に漕ぎ着けた。まだまだ、細かなセッティングが残されているが、翌日の本戦スタートまでに、車体を仕上げてほしい、。


 

若者が頑張るチームとして、神戸高専(だったかな?)のアルミ溶接フレームを紹介しよう。アルミ溶接は、鉄などに比べて難しいが、きれいに溶接が行われていました。フレームの構造も、トラス構造がきちんと採られていて合理的でした。右側は、近畿大学高専ソーラーカー。溶接技術は無くても、工業用のアルミ角パイプをネジ留めすることで、スペースフレームを構成していました。アイデアがあれば、ソーラーカーは作れる。


 

静岡ソーラーカーチームのハンドルを握るのは、世界的なソーラーカードライバーとしてのポジションを確立しつつある、アメリカ人のSiddさん。今回は、胸に何かつけています。東洋紡コーポレート研究所の快適性工学センターの徳田桂也(かや)さんが開発したスマートセンシングスーツのCOCOMI(心美)。厚さ0.3mmの電極をウェアに仕込み、心電図測定を可能としている。右側写真はタブレットに表示した例であるが、波形そのものを測定できるのだそうだ。これだと、心美ではなく心見で、ドライバーのテンションも見えてしまうかもしれない。なお、東洋紡社員系チームのTeam SUNLAKEのドライバーは、このCOCOMIを装着しない。理由は、やはり見栄えを含めた、広報上の理由ではないだろうか?


 

ピット裏を歩いていると、怪しげな集団を発見。大阪工業大学のメンバーが公式予選を終えた後に、カーボンクロスのハンドレイアップの準備しているではないか。ピットに行ってみるとZDPの池上敦哉氏が何か中川先生に、ナックルアームの取り付け部についてピンよりもM4のネジを入れたほうがいいとか、話をしていました。この付近には、バラストが取り付けられていたのですが、その重みで、フロア面とモノコックが剥離してしまったようです。そのため、これから修復作業を行うようです。ご苦労様です。


今回も、ボリューミーな解説で、ちょっと大変だったけど面白かったかな?ここまで読み込んでくる一般の読者は、一人もいないかもしれないけど、エンジニアおよびエンジニアを目指す学生のみなさんが読んでくれることを期待しています。
それじゃあ、アディオース!(k)


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