■WEM秋田優勝の高いステータス
WEM 2014で優勝した中村昭彦によれば、「1周6kmのほぼ平坦な大潟村のコースは、初心者には走りやすく、ベテランにはごまかしが効かないコース。」ということで、間口が広いにもかかわらず、奥行きが深い、まさにエンジニア育成のためのコースであるといえる。100以上のチームが存在する中で、過去20年間に優勝できたのは、ZDP、東海大、ミツバ、スーパーエナジー、AISIN AWのみ。EVエコラン業界の中では、長い歴史をもち参加台数も多い「『秋田』で勝たなければWEMの頂点を極めたといえない」とされるほどである。大潟村ソーラースポーツラインは、高校生や大学生の育成から、企業の現場で活躍するベテランエンジニアまでをも育てる貴重な経験の場となっている。
■WEMの教育効果
高校時代にWEMに触れ、スーパーエンジニアたちに憧れて育ち、社会に羽ばたいていった事例は多く存在し、優れた技術者育成の場としてWEMは位置づけられる。多くの場合、多様なスキルをもったメンバーが一同に集まり、問題発見、問題解決をチームワーク力で克服し、成果を得るというプロセスをたどることになる。この過程は、Project/Problem Based Learning (PBL)教育としての側面をもち、古くはマサチューセッツ工科大学のロボットコンテストなどに遡ることができる。このような活動を続けることで、専門的な知識や技術を実践の場で学ぶことができる。さらに、経済産業省などが提唱する社会人基礎力、あるいは中央教育審議会答申が定義する学士力といった、いわゆるジェネリックスキルが身につくとされている。企業においても自己開発プログラム、あるいは研究開発の場として位置づけられることもあるようだ。また、大会自体が多くのボランティアによって支えられており、そのような体験を行える場にもなっている。WEMはソーラーカー大会と合わせて製作講習会が企画され、現在は日本太陽エネルギー学会に引き継がれて「電気自動車・燃料電池自動車・ソーラーカー製作講習会」が毎年、東日本と西日本の2カ所で開催され、年間400〜500名が受講する規模に達している。WEM秋田の優勝者は、大会のレベルアップのために、翌年の製作講習会の講師を担当することが慣例となっている。
■WEMの波及効果
特殊電装のWEM用ブラシレスDCモータにはじまり、ミツバからもソーラーカー用DDモータに続き、WEM用DDモータが市販化された。そして、特殊電装からはアモルファスコアモータも販売されるようになった。このような高効率モータは、原油価格高騰や地球温暖化が懸念される中にあって、省エネルギー技術を学ぶ機会を与えてくれている。ここで磨かれた技術は、世界最高峰のソーラーカーレース「World Solar Challenge」の日本勢のモータにも応用され、2009年以降の東海大の活躍にもつながっている。
また、回生エネルギー利用が推奨される中で、フライホイールや電気二重層キャパシタ(Electric Double Layer Capacitor: EDLC)といった新しいエネルギー貯蔵デバイスも早くから導入され、実力を高めていった。とくにキャパシタは、今日のWEM秋田大会の上位陣には無くてはならないデバイスとなっている。2012年にはマツダがi-ELOOPを登場させ、オルタネータとキャパシタを組み合わせることで、比較的簡易なシステムで燃費向上を達成した。同様に2013年に発売されたホンダのフィットにおいてもキャパシタが搭載れた。このような先行的な取り組みは、極秘裏に企業内部で行われることが多く、情報交換の場が限られているのが通例であるが、WEMはエンジニア同士が議論を交わすことができる有意義な場となっている。
※2006年には、WEMで蓄積された知識や経験をまとめた、日本太陽エネルギー学会編『エコ電気自動車のしくみと製作』がオーム社より発行されている。 |