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 BackNumber〜2011鈴鹿4

鈴鹿2011ZDPチーフエンジニア池上の「今年の注目ポイント」 2011/08/06 15:30

毎年恒例、ZDPテクニカルディレクター池上が、今年もエンジニア的視点から各参加車の注目ポイントをピックアップしてみました。


JAGつくばソーラーカーチーム

 

103JAGつくばソーラーカーチームは大径アルミパイプを使った個性的なフレームでお馴染みのチームです。アルミ板と木材で作られたウッドステアリングも美しく仕上げられています。今年から自作のコア抜き機構(可変界磁機構)を搭載して、性能アップを狙っています。コア抜き機構とは、巻き線の巻いてあるコアの部分(車体に固定されていて、回転しない方)を、回転するマグネット(ホイールと一緒に回転する方)から横方向に引き抜くことで、マグネットを弱くしたのと同じ効果が得られ、モーターを高回転型にすることができます。具体的にはS字の登りではコアを入れた状態で低回転高トルクモーターとして使い。グラントスタンド前の下りストレートではコアを抜いて高回転型モーターとして最高速を伸ばして使うことができます。このように既存の車体を使いながら、改良ポイントを見つけて改善していくのは重要なことですね。
右は以前から採用のシンプルなフロントサスペンションです。シンプルな構造は魅力的ですが、サスペンションがストロークするとキャンバー変化が大きい(前から見てタイヤが傾く)ので、サスペンションは固めに設定する必要があるかもしれません。エアサスは簡単に硬さを変えられるのがメリットですが、タイヤの寿命を考えるとしなやかにストロークさせたいので悩ましいところです。


金沢工大の新型車両「ゴールデンイーグル」

 

金沢工業大学夢考房がオリンピアクラスの新型車両「ゴールデンイーグル」をデビューさせました。金沢工業大学の車は歴代すべての車名が「ゴールデンイーグル」なのですが、チーム員の中では何と言って呼び分けてるのでしょうね。今度教えてください。前輪2輪駆動のオリジナリティ溢れる、ちょっとかわいいデザインです。ただ、ちょっと気になる点がありました。写真右は前輪サスペンションのロアアームとアップライトとの接合部分です。球面軸受けのロッドエンド(通称ピロボール)で接合されていますが、写真を見てわかるようにネジが長く見えています。ロッドエンドはなるべく奥までねじ込んで、ロックナットの根元にかかる曲げが最小になるようにしないと、曲がったり、最悪折れることがあります。


 

左の写真の上の例は、ロッドエンド極力奥までねじ込んだ状態ですが、下の状態で使った場合には、テコの原理により半分の荷重で曲がってしまいます。このような場合はサスペンションアーム側の形状か、アップライトの形状を工夫して根元までねじ込めるように改良した方が良いですね。
ナックルアームもちょっと不安です。アップライト(写真右)に対してM4のボルト3本で固定されています。写真では見えない側面からも止められて配慮はしてありますが、ちょっと弱いですね。もしここが壊れたら完全に操縦不能になる部分ですので、数グラムの軽量化のために、ムリをしてM4ねじ3本に命をかける必要はないです。例えばすぐ隣のアップライト固定用のボルトで共締めするとか、他チームの設計も参考にしながら重量を重くせずに改善できる上手な方法を見つけてみてください。


初参加の「チーム江東」

 

東京都江東区の中学生を中心にした区民チームが今年エンジョイクラスに初参加してきました。「チームえとう」ではなくて「チームこうとう」ですのでお間違えなく。この車に触れない訳にはいきませんね。なんたってこの車、実は私が設計して、製作指導をしたものなのです。週末を使って、中学生と区民サポーターの皆さん一緒になって作り上げたものです。シンプルでコンパクトで運転すしやすく、なるべくお金をかけずに作れる車にしています。学生チームの参考になればと思って設計した車ですので、図面や部品購入先等も情報公開していきたいと思います。右の写真は大径のアルミ角パイプを加工して製作したアップライトです。アルミのムク材から、フライスで肉抜き加工して製作するのが一般的ですが、アルミ角パイプを溶接することで、簡単に中空の軽量構造を作ることができます。ただ、気をつけるのは材質です。アルミ角パイプで一般に入手しやすいA6063は溶接すると焼きなまされて強度が大幅に低下します。トガシエンジニアリング等から溶接しても強度が低下しない材質7N01製のパイプを入手して製作します。

 

左の写真はステアリングシャフトの支持部です。イグス(メーカー名)のイグボール(商品名)と言うの樹脂製の球面軸受けを使っています。オイレス工業でも同様の製品がありましたが、対応径が最大でもφ20mmだったのに対し、イグス製はもっと大きなサイズまでラインナップされています。「チーム江東」ではφ25mm肉厚2mmの7N01丸パイプを使用しています。写真右は消火器の固定部です。消火器のお尻の部分をフレームに固定した大径のアルミパイプの中にはめ込み、消火器のにぎりの部分付近をマジックテープのベルトででフレームにしばりつけてあります。走行中に踊らないように確実に固定しつつ、いざという時に取り出し安い消火器の固定方法はどうしたらいいだろうかと悩んでいたのですが、チームMAXSPEEDからこの固定方法を教えてもらいました。ベテランチームの知恵を拝借しながら、より良い設計を目指すのが近道ですね。学生チームの皆さんも、大会中は他の車を見る良い機会ですので、忙しい中でも他の車を見る時間を作って知識アップに努めましょう。



欠場の三重県津工業高校

 

出走ギリギリの再車検に車を持ち込んだ三重県津工業高校ですが、残念ながら決勝は不出走でした。パっと車を見たところ、まだまだ課題は多そうでした。
左は前輪サスペンションアッパーアームのフレーム側取付部分です。ロッドエンドを使用していますが、サスペンションがストロークしていないのに、すでにフレーム側のコの字部分に干渉しています。この状態でサスペンションがストロークすればフレームが曲がるか破損するのは明確ですロッドエンドの上下にスペーサーを入れて、きちんと可動する範囲を確保する必要があります。右はブレーカー付近の配線です。アップダウンのある鈴鹿を走るには配線が細いのと、端子がしっかり固定されておらず、少し揺すったところ端子が外れてしまいました。補機類用のバッテリが太め輪ゴムで止まっていたりと、他にも不安なところが見られました。「端子が取れたらどうしよう」「ねじが緩んだらどうしよう」「ショートしたらどうしよう」と言う視点を持って「あぶないかなぁ」と不安になるところはきちんと対策をしてレースに臨みたいところです。「あそこがちょっと不安だな」と思っている部分は、やっぱりトラブルを起こすものです。参加12回目のベテランチーム、とは言え毎年新しいメンバーが加入する高校チームなので苦労は多いかもしれませんが、ぜひ先輩方から経験を伝授してもらって、来年は出走&完走目指してください。


今年も厳しめコメントを書いてしまいましたが、設計製作で疑問があれば惜しみなくアドバイスしますので、遠慮なくZDP問い合わせフォームからご相談ください。(i)


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