■太陽電池セルの動向
シリコン太陽電池には大きく分けて、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンの3種類があるが、変換効率的には単結晶シリコンが最も優れている。6m2と限られた太陽電池面積でできるだけ多くのエネルギーを得ようとした場合、変換効率が高い太陽電池を搭載するほかない。
1990年代は16%を超えれば高効率であると思われた太陽電池の変換効率であるが、近年では18%を超えるものは多く存在し、中には20%を超えるものが登場している。現時点で、20%の変換効率に達する高効率シリコン太陽電池を市場に投入しているメーカーには、SunPower(サンパワー)とパナソニックがある。
いずれも、独自の高効率化技術を開発しており、非常に興味深い。
SunPowerのバックコンタクト太陽電池
SunPower社は1970年代から高効率太陽電池の開発に着手し、スタンフォード大学教授であったSwanson博士が1985年、SunPower社を公式的に創立した。
SunPowerセルがソーラーカー業界に登場したのは1993年のホンダDreamが最初である。当時は21%の変換効率を誇り、1993 WSCで初優勝を果たすのに貢献した。1996年にはZDPのソーラーバイシクル「スーパーとんかち」がSunPowerセルを搭載し、World Solar Cycle Challenge: WSCCで優勝している。
その後、同社のセルはNASAの無人ソーラー飛行機(Helios)などにも搭載された実績を持つ。日本のソーラーカーでは、大阪産業大学OSUのmodel S'、再輝、呉光高等学校、玉川大学などが採用している。2011年6月、SunPowerは世界最高に並ぶ24.2%の太陽電池開発に成功したと発表している。
SunPowerセルは、バックコンタクト(裏面電極)構造という特殊な方式を採用している。通常の太陽電池には、光を受けて生成したキャリア(自由電子と正孔)を捕まえるフィンガー電極(集電電極)が表面と裏面に、設けられている。特に表面の集電電極の直下には光が当たらないため、これを取り除いてしまおうというのがその発想の基になっている。
太陽電池の裏面近傍にキャリアを届かせる必要があるため、シリコン基板の厚さは0.2mm以下となっている。従来からある125mm角のA300型セルの後期バージョンはセルカットが行いにくいため、125mm角のものをそのまま搭載するケースが多かった。しかしながら、ソーラーカー用モーターで使いやすい96〜120V程度の電圧を得ようとした場合、200枚程度を直列に接続する必要がある。空力に配慮したソーラーカーの場合、大きなモジュールとなることから、この面内の角度差によって発電量が低下しやすい。そのため、セルカットを行わない125mm角セルを採用した場合、2次元曲面ルーフを採用したソーラーカーが登場しやすい。American Solar Challengeに出場する米国のソーラーカーチームのスペック表にはC50あるいはC60といったバージョンの記載も見られ、新型バージョンではセルカットが可能になったようである。
なお、この裏面電極構造はシャープ社の新型住宅用太陽電池モジュールでも採用されることとなった。
セルカットなしSunPower採用チーム |
MIT、スタンフォード大学、ニューサウスウェールズ大学、Aurora、ケンブリッジ大学、芦屋大学(東芝供給)、Team OKINAWA、Team Solar Phillipines、Midnight Sun、SAITEM、Onda Solareなど |
セルカットありSunPower採用チーム |
Nuon Solar Team、ミシガン大学、トロント大学、カルガリー大学 |
これらの中でも、スタンフォード大学チームはSunPower社と近い関係から、SunPower勢の中でも最高効率の太陽電池を搭載してくるのではないかと噂されている。
これに、透過率や反射防止膜を設けやすいコーニング社のガラス薄膜による封止を行うなど、発電重視の設計となっている。しかしながら、ナイフエッジのように薄いボディであるため、とくにフロントサスペンションの強度が不足するのではないかと懸念する意見もある。同様にUmicoreも2009年と同様なボディ構造であり、2009年に悲劇を招いたフロントサスペンションの強度が改善されているのか、注目される。
なお、表面が山型の構造になるようにエッチング処理を行うことで、テクスチャー構造を実現し、太陽電池表面で反射した光をもう一度キャッチできるような工夫も、高効率太陽電池では行われている。テクスチャー加工を施した樹脂フィルムをモジュール最表面に使用するケースもあるが、砂埃が詰まりやすいという欠点もあり、ちり煙霧も発生するオーストラリアのソーラーカーレースでの優位性については、一概に判断できない。 |