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ファラデーマジック2、14周プロジェクト 2005/05/14 17:30

はじめに
2005 WEMではライバルチームからのいい刺激を受けたおかげで、ファラデーマジック2は14周突破&84.957.6kmという大会記録を樹立して二連覇を達成することができました。今回は、2005 WEMに向けた取り組みについて、大きなことから細かいところま解説しましょう。チーム内からは、そこまで言わなくても・・・との声も聞かれるのですが、「アイデアは尽きることはない」という信念に基づき発表します。昨年の2004 WEMでは、念願の初優勝を成し遂げることができただけに、2005 WEMに対してはいままでとちょっと感じが違う。これまでは果敢にチャレンジするだけで良かったのだが、今回からは自分自身でも安全策というか、守りに入るような雰囲気もあった。でも、当然また優勝したい!! ということで、2005 WEMに向けたプロジェクトを発動させることにした。直線が主体の秋田ではあるが、シンプルなようで奥が深い。(しかし、もう本当にへろへろになりました。

 

2004 WEMの結果を受けて・・・
2004 WEMは雨で本戦が流れてしまったために、公式練習の記録である80.2539kmが大会記録となった。できたてのファラデーマジック2の実力は未知数である。目標であり大本命のスーパーモスラとの決着もはっきりとしなかった。そこで2004 WEMの翌日にZDP杯WEMガチンコ対決をしたところ、2台とも13.5周を超える記録を出すことができ、ファラデーマジック2が勝利した。ファラデーマジック2はこのとき13.5〜13.6周(82〜83km)の間の記録を出すことができていたと思われる。しかし、同時のこれが当時の限界にも近い数値であった。このまま何も変えなくても2005 WEMに臨んでも勝てるかもしれない? しかし、スーパーモスラ、つばさ53&52号、GRIFFON、Hyper USO800、そしてスーパーラモスやS.P. Evolution ver.7など、強豪ライバルや新型車で上位を目指すチームなど、気を許していてはいけない相手ばかりである。ミラクルでんちくんも戦力アップして、優勝争いに絡んで欲しい。そこで、2004 WEMに向けて新プロジェクトを発動した。プロジェクト名は「14PJ」。14周を達成することを目標とした安易な名前ではあるが、この目標がどれだけ難しいことかはチームメンバーは分かっていた。過去の記録の変遷を見ても、今回は84km程度が優勝ラインになるかもしれない。とにかく走行距離を伸ばすために何ができるのか考えた。

走行距離を2000m伸ばせ!!、まずは空力を改善せよ
本戦では、周回遅れの車が折り返しポイントに滞る場合も多い。渋滞を突破するためには、さらに性能的に余裕を見ておく必要がある。そこで、14周達成を実現するには、さらに2000m程度以上、つまり他車がいない場合で85km以上にまで走行距離を伸ばす必要がある。しかし、これは平均時速で1km/h以上に相当し、かなり大変なことである。速度が高くなると空気抵抗は速度の2乗、消費電力では速度の3乗に比例して大きくなる。そこで、まず空力の改善を行いたい。ということで2004年シーズンの最終戦が終わり、キムヒデ幸田レポートを書き上げると同時に、新たなる計画である14PJを発動した。そのメモを公開しよう。今回、まず検討したのは、タイヤまわりの空気抵抗。タイヤカバー、スパッツだけでなく車高を下げることも検討していた。しかし、豊田などでもノーズやテールの下面を擦っていることや、秋田の路面も悪いことから今回はタイヤカバーとタイヤスパッツに着手することにした。

 

細かい理屈は、合っているかも分からないレベルなのだが、とくにかく今回は効くかも?と思われたものは、できるだけ採用することにしたのである。このタイヤカバーが効くかどうかのヒントというか、動機になったのはミツバの元祖USO800。かつては1999 & 2000 WEMで二連覇し。オープンホイール型対フルカウル型の戦いで、最後の最後まで戦い抜いた名車である。なんと言っても、2003 & 2004 WEMの燃料電池部門でも優勝している実績をもつ。フルカウル型に対してオープンホイール型で互角に戦うには、ただのオープンホイール型には無い機能があるのではないだろうか? そもそもオープンホイールといってもホイールにはカバーが付いているではないか。そこで、USO800のような丸いタイヤカバーは、内部に回転する空気の流れを閉じこめることができ、空力的にメリットがあるのではないかと考えた。期待したような効果が得られなくても、少なくとも雨対策やホコリ対策にもなるので、もちろんGo!!です。という経緯で、ホイールカバーを製作することにした。この方式は、フルカウル型では難しいドライバーの視界を確保しながら、タイヤをカバーできるので安全面やドライバー負担軽減にもメリットが大きい。

 

たった30mmの地上高のファラデーマジック2であるが、エコノ亀吉2.5号のようにボディの下に指一本すら入らないエコノムーバーも存在する。そこで、たった15mmの高さのタイヤスパッツを全ての車輪に装着することにした。特にフロントはステアリング操作とともに動く、可動スパッツとなっている。ソーラーカーの世界ではホンダドリームやOSU model Sなどで採用されているシステムであるが、これをエコランの世界に持ち込むことにした。スパッツは回転するタイヤ回りの乱流を抑えることが大きな目的であるが、我々の場合は車体の開口部の面積を最小にすることを大きな狙いとしている。実際の製作を担当したのは藤田くんと井谷くん。2人とも静岡県立吉原工業高校自動車研究部和歌山県立和歌山工業高校機械工作クラブというように高校時代からエコラン界で育った強者たちである。

 

このタイヤカバー&スパッツの効果を検証するために、今年も大会翌日に大潟村ソーラースポーツラインにおいて実際に走行テストを行った。下は巡航時の消費電力でプロットが巡航時の平均消費電力である。ここで、白丸と塗りつぶしのプロットがあるが、それぞれ往路と復路に対応している。また、赤がカバーとスパッツ無し、青が有りとなっている。まだ、現時点では校正などの処理が不十分であるが、なんとなく青いプロットの方が消費電力が少なそうに思える。仮に、赤線から青線のように消費電力が変化したとすると、Cd値的には-5%の低減効果があったことになる。空気抵抗が走行抵抗に占める割合は約半分であるので、全体としては2.5%程度の消費電力低減が行えた可能性があるかも。もう少し実験や検討を加える必要はあると思うのですが、信じるものは救われる?

加速時のモータ効率を改善せよ
秋田を走るソーラーカーの世界では常識となっている加速と巡航の最適化。空気抵抗が少なければ巡航速度を高めに、巻線抵抗など銅損が低ければ加速を強めに振ることができる。つまり、この両者のバランスをとることが重要である。ところが東海大の場合は、すでにだいたいのバランスが取れていた。そこで、空気抵抗の低減には限界を感じ、モータの内部抵抗を低減す方法を模索することにした。もしモータの銅損が低減できれば、より加速を鋭くすることで、巡航速度が下がり空気抵抗の低減が狙えるはずだ。

昨年まで使用していた2003年型特殊電装アモルファスコアDCブラシレスモータスペシャル仕様(うーん、長い)は、特電秋田用モータがベースとなっている。ピーク効率は高く、大きな電流が流れた場合にも、なかなかの効率を叩き出していた。しかしその後、特電筑波用(強力型)モータをベースとした、コアが大型化された市販アモルファス特電が販売されてしまい、スペシャル比べてもほとんど特性が変わらない状況にあった。そこで、なんとかスペシャルの意地を見せるために改めて再検討を加えることにした。その結果、やっぱり職人技の手巻きでがんばることで、より大きなパワーに対応できるような変更を目指した。手巻きを担当したのは、前作でも巻き線を担当したきっくうこと菊田くん。期待通りに巻き終えてくれました。セッティングとしては巡航時よりも大電流側の効率を重視した。もちろん、その代償として無負荷電流は増えるなど低負荷時の変換効率は低下していますが、加速時の特性は改善されました。

さらにコントローラには、日本インター社のショットキーバリアダイオード(SBD)FCH30A06(耐圧60V耐電流30A)をモータコントローラのハイサイド側に入れ、フリーホイールダイオードの電流を負担させ、PWM使用時の損失を少しでも減らすようにした。(図中の青色で示したダイオード)。SBDはリーク電流が若干多めだが、順方向電流が流れたときの電圧ドロップが少なめで、順方向から逆方向に電圧が変化した際の逆回復時間は短いことが特徴である。SBDにもいくつかの分類があるが、我々はSBDとしては低リークなものを採用してみた。また、アルミ電解コンデンサは低インピーダンスなことで有名な日本ケミコン製KZEシリーズに変更し、高周波成分への対応能力を稼ぐためにフイルムコンデンサDTD-Zシリーズを追加した。平滑用の電気二重層キャパシタをやめた分も、アルミ電解コンデンサのKWシリーズで補っている。

回生制動で蓄えたエネルギーをどこで使うかであるが、今回は加速初期から加速完了までの間、電池に上乗せすることにした。つまりバッテリ電流は一緒でも、モータに投入されるエネルギーを増やすことにした。これにより、PWMによる損失は若干増えてしまうものの、バッテリの負担を増やさずに加速を鋭くすることが可能となる。

回生エネルギーを増やせ!!
やはり、キャパシタ伝道師キムヒデとしては、電気二重層キャパシタを有効に活用する方法を考えなくてはならない。そこで、今回は回生時に回収できるエネルギーを増やすことを試みた。これまでは、電圧が低いキャパシタをモータに接続することで回生ブレーキをかけていたが、、満足のいく回生エネルギーが得られないでいた。この原因は、従来のモータでは、ノーマルの状態であっても若干進角がついているからではないかと考えられる。スペシャルモータでは、さらに進角を進めることで回転数を高められるようになっています。ところが、発電機として利用する場合は、遅角の方がいいと聞いたことがある。そこで、新たにモータでは、進角だけでなく、遅角ポジションを設定することにした。従来はホールICを3セット使うことで進角3段変速があった訳だが、今回はこれに遅角用のホールICを追加したのである。こうなると配線が大変なので、専用のモータ用両面基板を起こすことにした(写真左)。この基板と手巻きコアを組み合わせることで、スペシャルモータができあがった。このモータはミラクルでんちくん用にも作ったのですが、車体に収まらないという理由で採用してもらえませんでした。せっかく、忙しい中で作ったのに・・・。

 

回生ブレーキを使用する際に遅角ポジションに切り替えると、当社比約2倍程度以上の回生電力が得られ回生エネルギーも増加した。1回あたりの回生エネルギーは0.8Wh以上であり、12回使用することで約10Whのエネルギーを稼ぎだすことになる。10/144Whは全エネルギーの約7%に相当する。従来はこの半分しか回生ブレーキで稼げていなかったので、昨年比で3.5%程度使用可能なエネルギーが増えたと考えられる。実際に、昨年は加速の一部に上乗せを使うだけで、回生でためたエネルギーが無くなってしまったが、今回は加速時間の全てに上乗せを行っても回生の際に蓄えたエネルギーを消費することができなかった。実際の走行では、巡航中の一部でも上乗せを使用してキャパシタ電圧の電圧が上がりすぎないようにした。今回、この回生&上乗せ加速に使用されたのは、日本ケミコン社の電気二重層キャパシタDLCAPの2.5V-1000F仕様。これまで使用していたキャパシタよりもさらなる低インピーダンス化が進められている。昨年と同様に、4直の10Vと2直2並の5Vの切り替えを行うことで制動力の切り替えを行っている。また、遅角と進角を切り替えることでも制動力を変えられる。今回、遅角ポジションによって多くの回生エネルギー得られるようになったことで、回生ブレーキの効きも向上し、結果的にハンドブレーキの使用量が減ったことも記録向上に貢献していると思われる。

14周達成のためのペース配分は「内田理論」
今回はモータの完成がぎりぎりで、120分を単純に14で割ったペース以上で走っておけばいいかな?くらいに考えていました。ところが公式練習が終わった後に、同じく14周を狙っているGRIFFONのために考えられた「内田理論」というペース配分が存在していることを知らされたのでした。この内田理論は、スタートの際ののロスや、その他のハプニング、そして最後にバッテリーが無くなって若干タイムが落ちても14周に届くように絶妙な余裕を設けている。スバルの内田さんいわく「私が考えた内田理論で走れば必ず14周は達成できますよ!!」ということで、なんとラップタイムシートごと頂いてしまいました。そういうことで、翌日の本戦は内田理論通りに走ることに徹し、14周達成を実現するのでした。しかし、今になってよく見直してみると、チャートでは1LAPを重ねるごとに10秒のずれが多い側に出ている。本当に信じて良かったんだろうか・・・。

バッテリの仕上がりも過去最高!?
おなじみのZDP鍋奉行の澁谷さん。達人の領域を通り越して、だんだん仙人のように見えてきます。今回は新しい試みも行われたこともあり?!、バッテリは過去最高の状態でした。最高すぎて、ちょっと不安だったことも事実で、最後まで気の抜けない戦いとなりました。思い起こせば1995年にでんちくんが10周を超え、1997年にスーパーでんちくんが11周を超え、1999年にUSO800が12周を超え、そして2002年にHyper USO800が13周を超える記録を作りました。2005年にファラデーマジック2が14周を超えるのには相当な努力が要りましたが3年でした。他人事のように一歩引いて見てみると、3〜4年後には15周に届きそうな勢いです。ということは、いずれは90km突破もあるのでしょうか? あんまり考えたくないです。

 

ということで、持ち込んだ秘密兵器はほぼ予定通りに動いたこともあり、好記録に結びついたようです。走行が終えた直後のインタビューで、「すごい記録が出たわけですが、来年はこの記録を越えることが目標になるのでしょうか?」という質問には、正直参りました・・・。やっと新記録を出したばかりなのに・・・。でも、来年も記録更新を目指してがんばりましょう。最後に、今回の記録達成に協力していただいたみなさま、そしてライバルとして切磋琢磨してきた仲間たちに感謝します。(k)

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