|
キムヒデの2004菅生レポート |
2004/08/30
20:00 |
|
やぁ、みんな元気かい? ZDPペンネーム「キムヒデ」のレポートは今回も続きます。これだけレポートを書いていると、そろそろネタ切れになるんじゃないかと自分でも心配しているんですが、各チームともいろんなことをやってくれるので、なかなかお休みにできませんねぇ。少しは楽をさせてくださいよ・・・。さて、今年の結果の方はZDP籾井君率いるモスラの優勝で幕を閉じましたが、いろんなチームで様々な挑戦がありましたので解説しましょう。
やっぱり菅生サーキットは山登りと山下りがメインです。そのためのキーテクノロジーとなるのは、やはりモータとキャパシタと車体でしょう。今回は、モータの工夫が目立ちましたので、まずはモータからウオッチしましょう!!
2004菅生におけるモータのトレンド
まず、びっくりさせられたのがスバル社員がメインのスーパーエナジー「GRIFFON」。TGMYの14インチ小径タイヤにミツバのスペシャルDDモータを搭載する。14インチタイヤは20インチに対して、DDモータの回転数を約1.43倍に上げることができる。菅生の坂を登るのに必要なのは「パワー=トルク×回転数」、つまりP=Tω(W)である。(パワーPの単位はW:
ワット、トルクTの単位はNm: ニュートンメートル、角周波数ωの単位はrad/s: ラジアンパーセコンドに変換して計算してください。)同じパワーが必要であれば、直径が小さくなった分、トルクTは0.7倍で良いことになる。したがって、同じ厚みのモータであれば、0.7倍の直径で済むことになり、体積や重量的には20インチの約半分で同等のパワーを出すことが計算上は可能となる。そういった着眼点で昨年の優勝車したミツバの「Hyper
USO800」も14インチタイヤを装着していた。さらに驚く機能として、GRIFFONのモータは、下の写真のようにステータの部分(電磁石の部分)を横に引き抜くことができるのだ。そうすることで、コア(鉄芯)の部分を通過する磁束数を減らすことができ、高回転で回る特性のモータに変化させることができる。似たようなものとしては、ソーラーカー用のNGM社のアキシャルモータSC-M150で、エアギャップを可変する機構が挙げられる。進角とは異なった速度可変機構であるが、PWM変調をかけることなく高効率で制御できるのではないかと期待される。
もっと度肝を抜かれたのは、first step AISIN AWの「つばさ53号」である。こちらは、特殊電装製のアモルファスコアモータを大幅に改造したモータを搭載してきた。昨年の「つばさ52号」では、特殊電装の筑波用モータを3個搭載してきたことでも驚いたが、今度の53号では、なんと1個しか搭載していない。まともに考えると圧倒的にパワー不足となり、モータが過熱して燃えてしまうところだ。(そういえば、そんなことをやろうとしてたチームがあったような・・・)しかし、AISIN
AWはちゃんと考えていて、やはりP=Tωの式に乗っ取り、こちらは回転数ωをオリジナルの約5倍の13,000rpmにまで引き上げてきた。こうなると遠心力が強くなるので、ローターも作り直している。コントローラ部分の容量を拡大するために、コイルを3並列にして、コントロール基板も3枚並列で電気的にも容量を増やしている。ただ、回転数が上がってしまうと、コアの部分でのヒステリシス損等の鉄損が増大してしまうため、効率が下がりかねない。しかし、もともと鉄損が小さいアモルファスコアのモータであるため、むしろ本領を発揮できるシチュエーションであるのかもしれない。残った課題は、減速手段である。ここは、お家芸のギヤで2段減速することで、機械伝達効率の低下が最小限に抑えられるよう配慮している。
一方、筑波用特殊電装モータを4個搭載してきたのが、うにゃにゃん亀吉の「エコノ亀吉2.5号」。菅生は初めての参戦となる。キャパシタは搭載せず、昨年のつばさ52号と同様に、古河電池FPX1275に下り坂での回生電流を充電している。
モータが足りなかった東北大齋藤研は、無事調達できて3台を搭載。こちらは、鐘紡製キャパシタだけでは容量が足りず、日本ケミコン製の2.5V-600F円筒型キャパシタを搭載していた。ということで、特殊電装のDCブラシレスモータは、1個のつばさ53号、2個の豊橋創造大T-Worksの「∞Smily」、3個の東北大齋藤研「Space
Sufer V」、4個の亀吉というバリエーションになったようだ。
ZDP池上さん率いる「スーパーでんちくん強力」は、昨年のミツバ製アモルファスモータを軽量化するために、ミツバの市販ソーラーカー用モータをベースにした小型化を狙ってきた。当初アモルファスコアでの製作を試みたが、トルクが必要な菅生では、効率を出すことができず、高級珪素鋼板スーパーHFコア?の東海大ソーラーカー研究会の新型ソーラーカーS8のモータを流用した。モータのベンチテストでは、2003年ほどではないものの良好な特性を叩き出していた。軽量化の恩恵もあるので、同じレベルか?
1年ぶりにミツバモータに触れた海ちゃんは、進角スイッチを周回数カウンターと勘違いして練習走行を実施!? なるほど、そういう使い方もあったか・・・。キャパシタは日本ケミコンの角形品を搭載し64.8V-41.7F。残念ながら、2003年の結果を上回ることなく、4位という結果になってしまった。
右側は、自作DDモータを製作してきたチーム。たしか仙台電波高専さんだったと記憶しています。間違っていたらメールで指摘してください。
他にも、クラッチで変速する機構として東工大Meisterもあったが、トラブルでほとんど本戦を走れなかったのが残念でした。
キャパシタの動向
EVエコランとしては大量のキャパシタを必要とする菅生では、持てるキャパシタをかき集めて搭載することになるようだ。日本ケミコン、パワーシステム、松下、鐘紡などのキャパシタを見かけたが、有力チームは日本ケミコンとパワーシステムを選択しているようである。日本ケミコン勢としては、ZDPのモスラとスーパーでんちくん強力、ミツバのHyper
USO800、そしてホンダエンジニアリングのOrcaが角形キャパシタを搭載。パワーシステム勢としては、first step AISIN AWのつばさ52、53号、スーパーエナジーのGRIFFONがラミネートタイプを搭載している。いずれも、低抵抗や軽量化の面でしのぎを削っている。いずれにしても、高効率なパワーモータの低抵抗化が進んできているため、キャパシタのさらなる低抵抗化も要求されてきたといえる。
キャパシタや低抵抗モータを相手にすると、電流制御系のトラブルが続出しやすいような感じがします。練習走行では順調に走行していたホンダエンジニアリング(ことしのチーム名ははNEO
EVERとなっていますね。)は本戦スタートを前にしてピットに戻る。ヨイショット!ミツバのHyper USO800も、キャパシタの電圧が低下しすぎないように追加したDC/DCコンバータのトラブルでピットイン。しかし、ミツバの斉藤さんは必死の追い上げを見せ、5位まで順位を上げた。
小型軽量ドライバーが有利
体重の違いの差を無くすためのバラスト調整が実施されず、急勾配による登坂抵抗が支配的となる菅生の大会。他の大会と比べると小型軽量ドライバーが、とても有利になる。スーパーでんちくん強力はいつも通りに海ちゃん、つばさ52号には中村さんの熱いラブコールに応えてT-Worksからみなちゃんが乗車。こうなってくるとドライバーの軽量化戦に突入しそうな勢いだ。ただし、菅生のコーナーを曲がるには、相当な勇気と運転技術が必要で、さらにキャパシタやモータの特性を理解して運転するとなると、相当なレベルが要求される。GRIFFONのドライバーは田中さんで、これまた軽量化。スバルは、菅生コースを借りきって極秘の練習走行を行ったとか?
Hyper USO800の齋藤さんも減量したという噂です? さそりダイエットってなんですか? つばさ53号は、ドライバー重量が重くのしかかり、記録を伸ばすことができなかった。こうなると、レベルが高くなった菅生の大会だと、キムヒデの出番はもはや無さそうである。バラストでも積むようになったら考えるとしますか・・・。
モスラとしては初めての勝利!!
これまで、電気自動車エコラン業界の上位に常に存在しながら、優勝回数が無かったモスラ。スーパーモスラでさえも、昨年のWEM in とよたで1回しか優勝したことがない。モスラ時代は自分の宿命との対決で手がいっぱいであった籾井君も、ようやく暗雲の間から抜け出てきたようだ。この車体の特徴はすごいの一言につきる。順に説明していこう。何と言っても最大の特徴は、自作の菅生専用アモルファスDDモータ。もう開発から3年が経過している。昨年は、ホールセンサICが電磁石からの磁界の影響で誤作動し、モータ性能が出し切れていなかったた。そのため、今年はセンサー用マグネットを搭載。今回はだいぶ期待が持てそうだなぁと、キムヒデは見ていました。直径約300mmのロータ&ステータはマグネット40極、コイル60極という多極扁平モータ。アモルファスDDというカテゴリーでは、このような形状が最適なように思える。よーく見ると、巻き線はリボンのような平角線。丸い電線に比べて、すきま無くまけることから占積率が向上し、その分は電気抵抗を低減できるのだ。ただし、このような大径多極モータでないとメリットは出しにくいかもしれない。変換効率は現在のところ不明だが、かなり良いモータであると予想される。
電気二重層コンデンサは、日本ケミコンの15V-65Fの積層角形キャパシタを4直列3並列にした60V-48.75Fバンクを使用。でんちくんよりちょっと大きめ。パワーシステム勢が2位と3位につける中、首位の座を守った。こちらも、レース向けスペシャル仕様の登場が待たれる。
コックピットは電圧計や電流計が合計4個、操作用のボリュームが4個、さらに進角スイッチが満載。ハンドルを持つところも、だいぶメータ類に占拠されつつある。スピードメータもあるので、いったいこれでメータを全部読めるのだろうか?
馬の背を高速で通過するために、フロントタイヤにキャンバー角をつけるなどで、トレッドを460mmから540mmへ80mm拡大。同時にスパッツを切り落とすなどで、重心を下げた。これらの改造により、余裕をもったスムースなコーナリングを実現した。キャンバによる転がり抵抗の悪化は、エコラン用タイヤということもあるだろうが、この程度では気にならないようだ。
そして、やはり小型軽量ドライバーとして、普段は東海大学木村研究室のファラデーマジック2を運転する菊田剛広君が担当。私より小柄な籾井くんでさえも体重には勝てないようだ。とくに最近は体重に勝てないらしい。
優勝でゴールを飾れてうれしそうな籾井くん。満面の笑みですねぇ。52号で総合2位に入ったドライバーのみなちゃんは、銀メダルをかじっていました。オリンピックの影響を受けすぎ?
最後は、最近、自称フォトジャーナリストにデビューしたキムヒデの作品集で締めくくりましょう。(k)
馬の背を通過するエコノムーバは、ライン取りがまちまちのようでした。なかにはスピンする車両もありました。
▲TOPへ戻る
|