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 BackNumber〜2012Ene-1GP

鈴鹿2012 Ene-1 GPみどころ(実践編)

2012/08/05 16:00

Ene-1 GP SUZUKAの第2回大会が、2012年8月5日(日)に三重県の鈴鹿サーキットで開催された。初回となった2011 Ene-1 GPでは「鈴鹿2011 Ene-1 GPみどころ(入門編)」を紹介したが、今回は「KV-40チャレンジ」における、実際のモータチョイスやセッティングなどについてスポットを当てて説明したい。


KV-40チャレンジは、パナソニックの充電式EVOLTAの単3型40本を搭載した、小型電気自動車による省エネレース。2012年は2011年と比較して、主に下記のレギュレーション変更があった。

  1. 1周×3回=3周の総合タイムを競う。(2011年は1周×2回=2周)
  2. ドライバーの体重は55kgとする。不足分はバラストで調整する。(2011年はどんなに軽いドライバーでもOK)
  3. 電気二重層キャパシタの使用が禁止される。(2011年は使用可能)

また、1セルあたり5A以上の電流を流さないよう、サーキットブレーカあるいはヒューズを装着する必要がある。5Aの放電電流の場合、1セルあたり1.1V×5A=5.5W程度の放電電力が得られ、放電時間は連続で20〜24分前後となる。40本を使用した場合、220Wの最大電力が得られることになる。昨年のKV-1クラスの優勝タイムは8分10秒程度であるため、3周するためには放電電力は200Wが最大で使えると予想される。1周10分とした場合には30分間の放電時間が必要であり、若干の余裕を見ると平均160W程度が使える見込みである。
この160〜220W程度の領域は、平地を巡航するエコノムーブの平均消費電量の2〜3倍程度となるため、モータのパワーを上げなくてはならない。また、7.8mの上り勾配と40mの高低差をもつ鈴鹿サーキットの場合、上り坂では登坂トルクが必要となり、下り坂では速度を速くする必要がある。そのため、レースで好成績を残すためには、様々な技術を組み合わせることが重要である。


■モータの選択

KV-40では1.2Vの平均電圧をもつ単3型EVOLTAを40本搭載することができるので、すべてを直列にした場合48Vの電圧が得られる。40直列以外には2並列20直列、4並列10直列といった組み合わせが考えられるため、12、24、48V程度の定格電圧を持った直流モータが必要になってくる。モータの出力はトルク×回転数で決まるため、モータの体格はダイレクトドライブ(DD)型では大型(=重く)、減速型では小型(=軽く)になる。また耐電圧的に問題がなければ、電圧を2倍に上げれば回転数も2倍に、電圧を1/2にすれば回転数も1/2になる。電圧が2倍になれば、最大電流も2倍になることなどから、最大出力は理論的には4倍になるが、発熱の問題もあるためモータ電流は変化させない方がよいだろう。
一方、モータの回転数が増やしても車体の速度を大きく変えることはできないため、減速機の減速比を上げることが必要となる。
このような、考え方を参考にして、実際に鈴鹿サーキットのEne-1 GPに出場した車体の中から事例を挙げてみよう。


(1)減速モータ+減速機

 

多くのチームが採用していたのが、この方式。モータの重量を下げることができ、ギヤ比の変更も容易であり、コスト的にも有利である。ただし、ギヤやチェーンによる摩擦で、若干ではあるが機械伝達ロスが発生する。「#ちーむ悪い人+近大EV」というチーム名の車体「OR-2」は、特殊電装製のS14502-500RというブラシレスDCモータはKV-40に向けて開発されたもので、7Aの定格電流をもつ。モータコントローラは、モータと分離された別基板となった。24V入力で2250rpm、出力145W。48V入力で4630rpm、出力300Wを発生する。このチームは標準的には24Vで登坂セッティングのギヤ比設定を行い、平地巡航は48Vで速度をアップする。このチームでは、フリーホイール機構が入っていないため、下り坂では、ホイールの速度が増すとモータの回転数が高くなり、逆起電圧が高くなって発電機のように動作し、自然に回生ブレーキが働いてしまう。そのまま回生ブレーキを効かせることもできるが、充電電流制御がそのままではできないので、ブレーカが落ちるかバッテリを傷める可能性もある。そこで、このチームではモータとバッテリを、切り離す作戦を採っている。下り坂で速度が出過ぎた場合、逆起電圧が高くなってモータコントローラを破損する可能性もあるので、注意する必要がある。


(2)減速モータ+減速器+フリーホイール
フリーホイールは、自転車のペダルを漕がなくても惰性でホイールが回り続けることができる機構である。上記のセッティングに対して、このフリーホイールを採用したチームも多く存在していた。

(3)モータ2機駆動+減速器+フリーホイール

 

平地を想定したエコノムーブ用モータ1機ではパワーが不足するが、新規にモータを調達購入するのが難しい場合、平地用のモータを2機使用することでも対応できる。「松本工業高校原動機部」の「HARUSAME II」は、特殊電装のWEM秋田用のS13399-250Rを平地用とし、登坂時にはマクソンのコアレスブラシモータRE40(出力150W)に減速用の遊星ギヤヘッドが装着されたものを追加して駆動力を伝えるそうである。ただし、走行しながらではギヤがかみ合わないため、登坂前に一旦停止してギヤをはめる作業をしなくてはならないとのこと。このあたりが改善できるとよいのですが、機械屋さんのアイデアでなんとかならないものでしょうか?



(4)高電圧化+減速機+フリーホイール

 

高校界にはエコ電という12Vの電池を使用した電気自動車レースがあり、この12V用のモータを保有しているチームは多い。「大阪府立佐野工科高等学校」チームによると、特殊電装のエコ電用モータS13762-130Rは、24Vでの駆動も可能であるとのこと。(ただし、制御用の電源部はそのままでは24Vの電圧に耐えられない可能性もあり、なんらかの改造が施されているかもしれない。)24Vにした場合、回転数が増して、パワーを2倍程度出すことができ、減速比を高めにとれば、2倍の登坂トルクを得ることができる。「SANOTECH・OSU DK-02」では、さらにエコ電用モータを2台並列に配置し、登坂トルクとパワーを確保していた。



(5)減速モータ+可変界磁機構+減速機

 

「MTB67」は、今回のEne-1 GPに関しては入社2年目の社員研修を目的としたチームとなっている。普段の大会ではDDモータへのこだわりが強いのだが、今回は車体「MOC ver.2」には減速型モータの電磁石コアを引き抜けるようにした、可変界磁機構を採用してきた。上り坂ではコアがしっかりとはまった状態でモータを動かし、緩い上りや平地になると徐々にコアを引き抜いていくと予想する。そして下り坂では、完全にコアを引き抜き、鉄損を無くしてフリー状態になると思われる。おそらく、モータコントローラにはバッテリ電流を一定にするための電流制御モードが組み込まれているものと予想される。


 

また、飯田工業高校原動機部AのWISDOMには、ミツバ製に見える減速モータが搭載されていたが、改造品だそうである。このモータの電磁石のコアには、なんと磁気変換効率に優れた鉄系アモルファス箔積層コアが採用されており、さらに可変界磁機構も実現されていた。



(6)モータ2機駆動+変速機(=フリーホイール機能内蔵)

 

登坂時は高トルク&低速、平坦から下り坂は低トルク&高速という特性が欲しくなる。ところが、モータは低速時にトルクが出しやすく、高速時にはトルクを出しにくくなるという特性があり、自動車とモータの特性は相反する。(1)〜(5)は、モータコントローラに内蔵されているPWM制御機能(Pulse Width Modulation=パルス幅変調)を使い、低速時には電流をチョッピングして流れる量を減らし、その結果、トルクを絞って走行している。これに対して、ギヤ比を変えられる機械的な変速機を導入すれば、このようなトルクと回転数のミスマッチを解消できる。紀北工業高校生産技術部Cは、マクソンのモータを2機使用し、さらにリアホイールハブの中には4段変速機が内装されており、勾配や速度に応じてギヤ比を変化させている。


(7)DDモータ

 

「四十雀」の「文四朗」は、ミツバ特製のDDモータを使用していた。見たところ、とくにコア抜き機構はついておらず、7.8%勾配を登れるだけの十分なトルクを出せるDDモータが付いていた。確かに、登坂時はモータコントローラのスロットを絞ってPWMのDUTYを下げ、相電流を増せばトルクは得られる。余計な機構がない方がシンプルでもある。ただし、電流制御を実現するために、後付けの簡単な回路が搭載されていた。(不調に終わったとの噂あり)また、バックアップ用?に浪越エレクトロニクスのモータコントローラも電流制御用に搭載されていた。


(8)DDモータ+可変界磁機構

 

アヒルエコパレーシング東郷のPursuiterは、ミツバのM0124Vを改造し、独自に可変界磁機構をつけたDDモータを搭載していた。エコノムーブ界ではありがちなセッティングであるが、十分なトルクが得られるのかは未知数。巻き線変更などをしているかもしれない。また、24/48Vの電圧切り替えに、浪越エレクトロニクスのモータコントローラを電流制限器+DC/DCコンバータとして使うこともできるようである。
優勝したチーム”ヨイショット!”ミツバのHyper TESLA 12は、ワールド・エコノ・ムーブのNATS大会用のモータを使用していた。アモルファスコア+可変界磁機構を採用し、平地走行時はコアを抜くことで速度を上げている。また、モータの消費電流を一定にできる電流制御モードも組み込まれていた。


(9)DC/DCブースト
静岡県立浜松城北工業高校省エネ研究部は、イータ電機工業の絶縁型DC/DCコンバータNVD05SC24-U1を使い、電池電圧にDC/DCコンバータの出力を上乗せすることで電圧を上げる工夫をしていた。電圧ブーストとも呼ばれる方法で、エコノムーブ界ではfirst step AISIN AWが編み出した方法として知られている。


このように、2012 Ene-1 GPでは、鈴鹿サーキットのアップダウンを40本の充電式乾電池で乗り切るために、様々な技術的なチャレンジが行われていた。たとえば、ホンダテクニカルカレッジ関西EV同好会は、4輪電動カート「モンパル」のモータに電流制限機能を搭載したものを使用していた。また、澤村電気工業の平歯車減速機付きモータSS60E60-HG4-10などを採用しているチームも見られた。これ以外にも、様々な手段はあるかもしれないが、今後の参考になれば幸いである。なお、次の電気自動車・燃料電池車・ソーラーカー製作講習会は2013年2月23日(土)に、東海大学高輪キャンパスで開催される予定である。

好成績or 好取組をしたチームには講師として、技術向上のために貢献してほしい。 電圧切り替え回路or倍電圧回路については、オーム社発行「エコ電気自動車のしくみと製作」などを参照してください。(k)


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