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ZDPの歴史

ファラデーマジック2開発ストーリー 2004/05/17 23:00

 東海大学木村研究室の2代目となる「ファラデーマジック2」。2002年にデビューした初代「ファラデーマジック」をさらに高性能化するために、2003年シーズンの閉幕とともに開発が始まった。製作は2004年2月から大会中までの約3ヶ月間。土日祝日も関係なしに、大学の門が閉まる23時まで毎日製作を行った。

1.初代「ファラデーマジック」の課題
 「ファラデーマジック2」を語るには、初号機である「ファラデーマジック」から触れなくてはならないだろう。この車体の名前は電気磁気学の電磁誘導の法則や電気化学のファラデー定数などを発見したイギリス人科学者「マイケル・ファラデー」から名づけられた。そういうことで極秘にするために付けられた開発コードネームは「マイケル」であった。この初代「ファラデーマジック」の開発を進めていた2001年頃、我々に衝撃を与えていたのはホンダエンジニアリングEVERのSuperior(スペリア)であった。車幅が広いスペリアは、横風に対する空気抵抗の悪化を抑えるという形状であった。不気味なほどの異様なデザインを目の当たりにした瞬間、度肝を抜かれたが、ソーラーカー的にはホンダ93ドリームやOSUのOSU model Sを連想させるもので、意外と行けるのでは?と、当時考えていた。しかしソーラーカーの形状は2001年時点では、薄型形状のものが主流になりつつあった。そこで初代「ファラデーマジック」はソーラーカー的発想の高床式を採用することにした。空気をボディ底面に流すことで実質的な前方投影面積の低減を狙ったもだ。また、横風に対しても側面の断面積が小さいので、スペリアと同様に横風にも強いのでは?と考えていた。さらに、カウルのテール部分は、タイヤを格納する都合で魚のタイのような縦しぼりのものが主流なのだが、ソーラーカーのOSU model Sのようなイメージで、イルカっぽく?横しぼりにしてみた。

 

 

 相対的にファラデーマジックがどのような性能を持っているのか調べるために、2003年4月に栃木県某所のテストコースでミラクルでんちくんやスーパーモスラと巡航時の消費電流を比較してみたところ若干多めであった。この両車はどちらも、トップレベルの高性能車であり、ファラデーマジックも80kmを超える記録を出せるほど優秀であった。ファラデーマジックも、高い性能であることには変わりないのだが、ミラクルでんちくんやスーパーモスラと同一タイヤを装着していたことから転がり抵抗もほぼ同一と考えられたので、空力面で負けている部分があると考えられた。やはり、ソーラーカーほどエコランカーは地上高を上げられないため、地面効果やタイヤスパッツによる干渉抵抗が大きくなってしまったのではないだろうか。一方、大きな前面投影面積をもつエコノ亀吉が、ファラデーマジックに肉薄する性能をたたき出していることから、コーナリング性能や空力形状を改めて考え直すことにした。下の写真は赤い毛糸を張って走っていたエコノ亀吉であるが、空気の流れがよく見えている。(カーグラフィック2003年7月号にも同様な写真が掲載)このような実験は、大変参考になりますね。

2.デザイン
 それでは、ファラデーマジック2の外観について紹介しましょう。次なるコンセプトは、「低重心化を進めながら空気抵抗を減らす」ことです。ここで、なんといっても大きくてじゃまなタイヤをどう処理するかが鍵となる。「大きくてじゃま」というのは、ビッグな私がもっとも嫌うフレーズである。「大きいことは、いいことだぁ!」と幼少時代にたたき込まれてきたし、「隣の車が小さく見えまーす。」という有名な?CMのも大きい車の方がすばらしいという意味であったはずだ・・・。14インチタイヤを選択するという他チームの動向やZDP池上さんの動きも情報として入っていたが、これまでの実績からミシュランの20インチタイヤが入るサイズとすることにした。そこで、空力性能を確保するために、前作では見送った足を組むスタイルをやむを得ず採用した。しかし、コーナリング性能を確保するためにスバルさんや、ミラクルでんちくん、スーパーモスラで採用していたトレッド幅330mmでは不足していると考え、気持ち程度増やした350mm程度に設定し、思い切って大きくて丸い車体とすることにした。これでもスペリアやAquaよりは小さいはずだろう。こうして考えた車体の空力を検証するために、キムヒデ的に空力(特にCd値)が良さそうだと予想したモスラ、スーパーモスラ、Orca、ミラクルでんちくんと比較してみた。ここに示した以外にも、つばさ52号、エコノ亀吉、Aqua、ステルス、スーパーエナジーの各車などをたくさん研究させていただきました。Hyper USO800とつばさ53号は、思想があまりにも違うのだけども、こちらもなぜ速いのかはそれなりに分析させていただきました。

 こうして眺めると意外というか当然というか、ファラデーマジック2を含め、これらの車体は類似性が高いことがわかる。緑の線がファラデーマジック2の原案となったラインですが、まったく白紙の状態から考えているのにも関わらず、これらを重ねてみると妙に近いラインであることに、「意外というかやっぱりというか、似ちゃったのねぇ・・・」とちょっとがっかりしました。いろいろな翼形を眺めていると、やっぱりこうなっちゃうのかな? でも、これで「大きくは外していないだろう」ということでちょっと安心もしました。実際には、下回りを中心にディテールが変更され、ミラクルでんちくんやスーパーエナジーのような、「地面に密着するイメージ」=「鏡像効果を意識」した車体となった。こうして、デザインされたのがファラデーマジック2なのであった!? 正面から見ると、ファラデーマジックは意外と細く見えます。もはや、縦しぼり気味でも仕方ない。速く走れば影響は出にくいだろう?? 14インチタイヤのミラクルでんちくんと比較すると、Aが30%少ないという数値以上に、こんなにも正面からみた印象が違ってしまうのかっ!!という状況に、不安を感じないではいられなかった。いったい、どうなっちゃうんだろう・・・!!「ファラデーマジック2でダメだったら、また一からファラデーマジック3を作りましょう。」製作&ドライバー担当のきっくう(菊田)には、意外にも割り切りというか気持ちの切り替えが早いという一面が芽生えたようだ。

 

3.製作
 FRP製作技術はZDPモスラシリーズ、カーグラフィックのCG号、team DAIDOのWING 04、ジョナサンのLittle Jonasunなどの製作をお手伝いさせていただく?という形で習得させて頂きました。大会会場では、どこに外注したんですか?とたずねられることもあり、チーム一同うれしく思いました。でも、自作ですよ。
雄型も顔が映るくらい磨いちゃうぞ!! でも雄型の製作には1ヶ月もかかりました。そしてヤフーオークションで落札したジェットヒータ2台を使って自作の炉(ソーラーカー製作用と兼用)を準備し、プリプレグを使用して外皮を製作しました。

 

 

 外皮完成。でも、もう4月に。間に合うのか・・・。このあたりから余裕が無くなり写真も残っていません。横では、14インチ版ミラクルでんちくんを製作していた池上さんも「こんなに薄くて大丈夫かなぁ?」とつぶやきながら、黙々と? 14インチ版ミラクルでんちくんの製作を行っていました。製作現場でも、お互い「私が正しい」と思いながら、「やっぱり、まずいかも」と自問自答しながらの対決となりました。

 

4.車体内部
 足を組んでトレッド幅を攻めつつ、秋田や白浜などでスーパーモスラやミラクルでんちくんが折り返しで苦労しているのを見ていたので、コーナリング特性を若干多めに確保するため、少し弱きの350mmのトレッドとした。ステアリング系もスーパーモスラをだいぶ参考にしている。このほかにも、これまでに開発された特殊電装アモルファスDCブラシレスモータ、ミシュランの低転がり抵抗タイヤ、渋谷さんのバッテリ充電技術や、エネルギーマネージメント術など、持てる技をほぼ100%つぎ込むこととした。
リムはZDP SHOPで売っているALEX DX32で、なかなかいい感じに広いリムでした。

 

6.電気二重層キャパシタの使い方
 今回は電気二重層キャパシタの使い方も若干変更した。2003年は定格13.5V(5本分)のキャパシタバンクを使い、10V付近の電圧にプリチャージして搭載していた。折り返し手前で、バッテリからこのキャパシタにスイッチすると、回生ブレーキがかかり減速できた。そして、折り返し後にバッテリーに上のせし、再加速に回生エネルギーを利用していた。今回は、日本ケミコン製の電気二重層キャパシタ:定格5.4V-500F(2本分)のキャパシタにも、バッテリと同様な倍電回路を設け、回生ブレーキの効きを2段階にし、上のせする電圧も低めと高めを選択できるようにした。なお、MOSFETによるスイッチングも検討したが、電力損失や信頼性を考えて、あえてトグルスイッチを選択した。first step AISIN AWが搭載したことでブームとなりつつある?ブースト回路も、キャパシタのプリチャージ機能を兼ねられるのでいちおう搭載してある。戦術上大幅にセッティングが狂った場合には使用する予定であったが、実際にはレース中で活躍する場面は無かった。

 

7.未知数の性能
 2004年WEMの公式練習(予選)は、製作講習会講師の準備などで申し込みが遅れてしまい、さらにエントリーフィーの振り込みも大学の入学試験などで遅れてしまったことから最後尾グリッドからのスタートとなってしまった。これは、だいぶ不利な状況であり、かなり精神的ダメージが大きかったので好天候を祈って会場入りした。しかし、今にも雨が降りそうなくらいの曇天である。明日の本戦も、大雨&暴風になりそうだ。なんとか携帯電話で連絡しながらスタートの雑踏を乗り越え、先頭集団を追うことにした。そして、なんとかトップに躍り出た。最初は、明日の本戦を考え早く車体を回収できる13周を回ってピット前で止めようかと考えていたが、横で池上さんと渋谷さんが行け!行け!と叫び、2位のモスラも楽々と13周を超えてきそうな勢いだったので、1位キープ&80km越えあたりのポジションを狙うことにした。翌日4日の本戦は雨で中止になり、そのまま優勝となった。さらにその次の日の5月5日にZDP杯スーパーモスラvsファラデーマジック2は、ガチンコ勝負を行った。卒業研究で必要なデータを採るため残留した成蹊大学も加わった。折り返しポイントでの干渉が無いという条件ではあるものの13.5周を超えるハイレベルな戦いが行われ、ファラデーマジック2はスーパーモスラとの直接対決を制した。本当の性能は、これから検証してみないと分からないがまずまずの性能であるといっていい。

8.まとめ
 初代「ファラデーマジック」で得たデータや経験をもとに、新型車「ファラデーマジック2」を設計・製作しました。80kmを超える大会新記録で初優勝という、これ以上ない結果が出ました。データはこれから解析しますが、現時点では秋田のコースに対してトップレベルの車体に仕上がったと考えています。この性能向上は、空力特性、とくにCd値の改善と転がり抵抗の低抵抗化の相乗効果であるといえるでしょう。ガソリン1リットルの理論エネルギー(大会では1Epと定義)で5000kmを超える燃費ということになります。実際には電気エネルギーを火力発電所で40%程度で発電できると考えれば2000km/L程度の燃費となるのかもしれませんね。これからの課題としては、豊田のようなカーブが続くコースや、幸田サーキットのようなきついコーナーのコースに対応できるのか?といった問題や、路面状況がよいコースでの14インチ勢との対決などがあるかと思います。次回の第3戦の菅生サーキットは、キャパシタやモータなどを特別に用意する必要があり、例年通り資源を集中してZDPチームとして参戦するので、次のファラデーマジック2は第4戦の豊田に出場する予定です。

 最後になりますが、ZDPをはじめとして業界関係者の皆様には、これまでいろいろなことを学ばせていただきました。この場をお借りして感謝します。大潟村の河内さんにも立派なスタジオに泊めていただきありがとうございました。設計製作&ドライバーとしてチームの中心となってがんばったきっくう(菊田)、途中から製作を担当したフジちゃん(藤田)、きっくうの手足となり修行を積んだ駒井ちゃん、そしてソーラーカー研究会&木村研のメンバーのみんな、ご苦労様でした!!!(k)

(使用した写真は、スーパーエナジー内田さん&田中さん、日本ケミコン森さん、岐阜県立高山工業高校山下先生、ヨイショット!ミツバの稲葉さん、その他の皆様にご協力いただきました。)

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